Star Gazer ~出航~
2011年 09月 16日
とある街の港に一隻の船が停泊している。時刻は早朝、朝日がようやく顔を出すかの頃、少女が一人、水平線を見つめていた。緩やかに風が吹き、肩で切り揃えられた彼女の黒髪を揺らす。
「うん、いい風、絶好の航海日和ね」
片手で帽子を押さえながら、嬉しそうに船を見上げ、
「今日もヨロシクね、星蓮船」
星蓮船と呼ばれた船は波に揺られ、ギィと音を立て船体を揺らす、まるで頷くかの様に。彼女にとって、この船は長年連れ添った相棒なのだろう。そしてもう一人。
「船長~、村紗船長~!」
青年が彼女に駆け寄って来る、白地に青のストライプが入ったセーラー服だ。村紗船長と呼ばれた彼女と同じ格好をしている彼は、この星蓮船の乗組員だ。
「おう、赤城、首尾はどうだい?」
まだ息を切らしている青年に向き直り、舌に馴染んだ口調で問いかけた。
「えぇ、それが結構な高値で売れましたよ。なんでも、この街の人らは漁に出ないみたいでして」
その言葉を聞いた村紗は怪訝な表情になる。
「漁に出ない?こんなに立派な港があるのにか?」
それまで晴れやかな笑顔だった赤城と呼ばれた青年は、一瞬苦い顔をしたがすぐに笑顔をつくり、右手を頭の後ろにやりカラカラと笑った。
「ハハハ、そう言われてみれば変ッスねぇ~」
確かにこの街の港は石造りで船着場も広く、荷揚げ場に専用の滑車まで在る程だ、村紗の疑問は最もだろう。
「誤魔化すんじゃないよ、それより何かあるのか?私は見逃さないぞ、お前今イヤ~な顔したよなぁ」
村紗は半眼で赤城の眼を見つめる、口元が笑っている辺りからかっているのだろう。赤城は、本当にこの人は、とため息をつく。
「いや流石船長、伝えようか迷ったんスけど、やっぱ船長に隠し事は出来ないッスねぇ~」
そう言うと赤城は説明を始めた。まずは市場に卸した品とその利益、次の土地までの距離や航路、そして、
「で、なんで漁に出ないのか、オレも変だと思って聞いてみたんスよ、そしたらね……」
赤城は急に真剣な面持ちになると、ふと眼を伏せる。急変した赤城の態度に息を飲んだ村紗は、
「お、おい、赤城?」
そう言い手を赤城の方に延ばした瞬間、赤城が勢い良く顔を上げ、
「呪われているんだァ!」
…………は?
「…………は?」
「あ、あれ?びっくりしませんでした?いいんですよ、もっと驚いても。キャー!ってなって抱き付いて来てもオレは全然オッケーっすから!」
ポカンと口を開けたまま停止していた村紗は、ヘラヘラ笑う赤城に心の底から呆れた様子で、ため息をつくと、
「本当にバカだなお前は、もういい」
手のひらで目元を覆い、赤城の脇を抜け市場の方に歩き出そうとする村紗に、赤城は慌てて取り繕う。
「わぁ、じょ、冗談ですってば、船長!」
左手を掴まれたので仕方無く赤城の方に向き直ると、困った様に眉を八の字形にした赤城の顔が近くにあった。
「ちょ、お前、手を離せ!」
「そんなこと言ってぇ、離したら逃げちゃうでしょう船長?」
泣きそうな赤城の顔が近づいて来る。
「わ、わかったから!逃げない、逃げないから!……て言うかなんで私が逃げなきゃなんないんだよ!えぇい、近い離れろ!」
右手で赤城の顔を掴み遠ざける。
「……ったく、赤城のくせに……。で、本当は何だ、言ってみろ聞いてやるから」
村紗に顔を握り潰されたまま赤城が答える。
「ひゃい、でも本当なんスよ、市場の人がそう言ってたんです、痛いです」
「何?」
村紗は右手を離し、赤城を自由にする。
「なんでも、ここ最近漁に出た船が帰って来ないんですって。だから次の土地までは来た航路を戻って迂回した方が良いってわざわざ地図まで……」
指の痕が残る顔をさすりながらそう良い、ポケットから紙切れを取り出す赤城を村紗は一蹴する。
「ふん、バカバカしい、何が呪いだよ」
「でも、危なく無いっスか?何があるかわかんないし」
村紗は呆れ口調で赤城に返す。
「危険だったら今までだって何回もあっただろう、それに迂回した所で其処に危険が無いと言い切れるのか?どちらにしても、何があるかなんてわかんないんだ、それが航海ってモンなんだよ。」
赤城は驚きもせず嬉しそうに、
「ま、そう言うと思ってましたけどね。オレ、船長のそういうトコ好きですもん」
「なっ、す、好きってお前、何言って……」
臆面も無く答える赤城に、村紗は顔を赤くする。そんな村紗を見て赤城は不思議そうに、船長?なんて首をかしげていた。
「と、とにかくだ。食料も時間も限りがあるんだ、最短ルートを行くのがベターなんだよ」
そう言い、コホンと仕切り直すと。
「わかったら、さっさと出発するぞ。準備は出来てるのか?」
「うっす、必要な物資の調達と搬入は他の乗組員がやっています。すぐ出れますよ」
「上出来だな」
眩しい笑顔を赤城に向け、星蓮船へと歩き出す。眩しい朝日を背に受け出航の刻は徐々に迫る。
そして、二人は気付いていなかった。星蓮船の他に船が一台も無い事に。
to be continued
原作 東方Project/上海アリス幻樂団
「うん、いい風、絶好の航海日和ね」
片手で帽子を押さえながら、嬉しそうに船を見上げ、
「今日もヨロシクね、星蓮船」
星蓮船と呼ばれた船は波に揺られ、ギィと音を立て船体を揺らす、まるで頷くかの様に。彼女にとって、この船は長年連れ添った相棒なのだろう。そしてもう一人。
「船長~、村紗船長~!」
青年が彼女に駆け寄って来る、白地に青のストライプが入ったセーラー服だ。村紗船長と呼ばれた彼女と同じ格好をしている彼は、この星蓮船の乗組員だ。
「おう、赤城、首尾はどうだい?」
まだ息を切らしている青年に向き直り、舌に馴染んだ口調で問いかけた。
「えぇ、それが結構な高値で売れましたよ。なんでも、この街の人らは漁に出ないみたいでして」
その言葉を聞いた村紗は怪訝な表情になる。
「漁に出ない?こんなに立派な港があるのにか?」
それまで晴れやかな笑顔だった赤城と呼ばれた青年は、一瞬苦い顔をしたがすぐに笑顔をつくり、右手を頭の後ろにやりカラカラと笑った。
「ハハハ、そう言われてみれば変ッスねぇ~」
確かにこの街の港は石造りで船着場も広く、荷揚げ場に専用の滑車まで在る程だ、村紗の疑問は最もだろう。
「誤魔化すんじゃないよ、それより何かあるのか?私は見逃さないぞ、お前今イヤ~な顔したよなぁ」
村紗は半眼で赤城の眼を見つめる、口元が笑っている辺りからかっているのだろう。赤城は、本当にこの人は、とため息をつく。
「いや流石船長、伝えようか迷ったんスけど、やっぱ船長に隠し事は出来ないッスねぇ~」
そう言うと赤城は説明を始めた。まずは市場に卸した品とその利益、次の土地までの距離や航路、そして、
「で、なんで漁に出ないのか、オレも変だと思って聞いてみたんスよ、そしたらね……」
赤城は急に真剣な面持ちになると、ふと眼を伏せる。急変した赤城の態度に息を飲んだ村紗は、
「お、おい、赤城?」
そう言い手を赤城の方に延ばした瞬間、赤城が勢い良く顔を上げ、
「呪われているんだァ!」
…………は?
「…………は?」
「あ、あれ?びっくりしませんでした?いいんですよ、もっと驚いても。キャー!ってなって抱き付いて来てもオレは全然オッケーっすから!」
ポカンと口を開けたまま停止していた村紗は、ヘラヘラ笑う赤城に心の底から呆れた様子で、ため息をつくと、
「本当にバカだなお前は、もういい」
手のひらで目元を覆い、赤城の脇を抜け市場の方に歩き出そうとする村紗に、赤城は慌てて取り繕う。
「わぁ、じょ、冗談ですってば、船長!」
左手を掴まれたので仕方無く赤城の方に向き直ると、困った様に眉を八の字形にした赤城の顔が近くにあった。
「ちょ、お前、手を離せ!」
「そんなこと言ってぇ、離したら逃げちゃうでしょう船長?」
泣きそうな赤城の顔が近づいて来る。
「わ、わかったから!逃げない、逃げないから!……て言うかなんで私が逃げなきゃなんないんだよ!えぇい、近い離れろ!」
右手で赤城の顔を掴み遠ざける。
「……ったく、赤城のくせに……。で、本当は何だ、言ってみろ聞いてやるから」
村紗に顔を握り潰されたまま赤城が答える。
「ひゃい、でも本当なんスよ、市場の人がそう言ってたんです、痛いです」
「何?」
村紗は右手を離し、赤城を自由にする。
「なんでも、ここ最近漁に出た船が帰って来ないんですって。だから次の土地までは来た航路を戻って迂回した方が良いってわざわざ地図まで……」
指の痕が残る顔をさすりながらそう良い、ポケットから紙切れを取り出す赤城を村紗は一蹴する。
「ふん、バカバカしい、何が呪いだよ」
「でも、危なく無いっスか?何があるかわかんないし」
村紗は呆れ口調で赤城に返す。
「危険だったら今までだって何回もあっただろう、それに迂回した所で其処に危険が無いと言い切れるのか?どちらにしても、何があるかなんてわかんないんだ、それが航海ってモンなんだよ。」
赤城は驚きもせず嬉しそうに、
「ま、そう言うと思ってましたけどね。オレ、船長のそういうトコ好きですもん」
「なっ、す、好きってお前、何言って……」
臆面も無く答える赤城に、村紗は顔を赤くする。そんな村紗を見て赤城は不思議そうに、船長?なんて首をかしげていた。
「と、とにかくだ。食料も時間も限りがあるんだ、最短ルートを行くのがベターなんだよ」
そう言い、コホンと仕切り直すと。
「わかったら、さっさと出発するぞ。準備は出来てるのか?」
「うっす、必要な物資の調達と搬入は他の乗組員がやっています。すぐ出れますよ」
「上出来だな」
眩しい笑顔を赤城に向け、星蓮船へと歩き出す。眩しい朝日を背に受け出航の刻は徐々に迫る。
そして、二人は気付いていなかった。星蓮船の他に船が一台も無い事に。
to be continued
原作 東方Project/上海アリス幻樂団
# by spencer-nsr | 2011-09-16 00:38 | 異約幻想郷 | Comments(1)

